Vol.11 観世流能楽師 山下麻乃 さん
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〜山下麻乃(やました あさの)さん プロフィール〜
観世流能楽師。昭和42年生魚座O型
広島県広島市出身。京都薬科大学クラブ活動にて能楽と出会う。その後プロの能楽師を志し大阪にて観世流職分山本勝一師に師事。平成20年11月「石橋」を披く。
現在、大阪、奈良、徳島、広島などで舞台公演、謡曲、仕舞の指導、講座・ワークショップの活動を行っている。
- ※「石橋」を披く‥披く(ひらく)とは、初演するという意味ですが、初演の曲すべてを「披く」とは言いません。能楽師としてのキャリアの節目になる記念碑的な曲(石橋・猩々乱・道成寺など)について特別に言います。
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K: キレイnet Y: 山下麻乃さん (順不同)
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K: 能を舞うことをご職業に選ぼうと思われたきっかけを教えてください。
Y: 大学在学中に勧誘をされて能楽部に入ったことがきっかけです。部員の少ない部活で必然的に部長になってしまい、新入部員の勧誘をせまられました。そのためにはもっと能のことを知らないと説得できないと思い、勉強するうちに楽しくなり能の魅力にはまってしまいした。
大学卒業後、一度は実家のある広島に戻り、製薬会社に就職したのですが、やはり能を続けたくて退職し、内弟子修業に入りました。
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K: 内弟子修業ではどのようなことを学ばれたのですか?
Y: 内弟子修業は基本的には5年間です。その間、芸のことはもちろんですが、お稽古や、舞台のための裏方の仕事や、人脈づくりについて学びました。独特な芸の世界ですから、学ぶことはたくさんありましたし、師匠の一挙手一動を見逃さないよう一生懸命な毎日でした。
K: その後独立を?
Y: 独立して2年になります。活動の場を自分で切り開かなくてはいけないので、最初のお弟子をとるまでは独立してやっていけるかどうか不安でした〜(笑)
今はお弟子さんに謡や舞を教えたり、文化センターで講座を開いたり、定期公演などを中心に活動をしています。
K: 指導で心がけているようなことはありますか?
Y: 能は敷居が高いイメージがあります。そのイメージを変えるためのアプローチを心がけています。例えば、能を観る前に、謡を翻訳して内容を理解してもらいます。謡の中にはかけ言葉や韻があったりして、それを知ってもらうことで、親しみを持ってもらうことができます。また生徒さん達と能の舞台となった謡跡を訪ね歩くことで古代人の心のひだを感じてもらったりしています。これはとても好評で毎回多くの方が参加してくれています。
K: 能楽師というと男性の舞手が多いイメージがありますが・・・。
Y: はい、圧倒的に男性が多いです。観世流だけで能楽師は600人弱いますが90%は男性ですね。その昔は女性の舞手もいたようですが、現在は男社会といえるかもしれません。
私自身、能楽師を志したころ、周囲から女性は無理だといわれた経験があります。
今までに能を含めていろいろな舞台をみました。バレエ、オペラ、演劇、文楽・・・それぞれにどれも素晴らしいのですが、とりわけ能は完成度の高い舞台芸術だと思います。舞台上の振り付けや美術は不必要なものはすべて排され限りなく最小限です。謡の言葉の流れ、メロディの美しさが能の主たるテーマである人間の愛情や理性と本能のギャップや、天からの恵みの尊さ、またそれへの感謝という人本来のある姿を語ります。能は直線的で無機的であるがゆえ、舞手の気と技術がすべて見えてしまうのです。女性は身体的にも精神的にも有機的といえます。そのあたりが女性には難しいといわれる理由かもしれません。
K: はじめて能を観るかたにおすすめの演目はありますか?
Y: 「葵上」は源氏物語の葵上の巻きを題材にしていてわかりやすいと思います。美しい年下の恋人、光源氏の心が離れていくのを感じながら、自尊心ゆえに源氏を慕う気持ちや嫉妬心を理性で抑え込んでしまった六条御息所。けれども無意識のうちに魂が身体から抜け出して、懐妊した正妻・葵上の枕元に立ち命を奪おうと襲いかかるという物語です。
平安時代の宮中の男女の恋物語ですが、いつの時代にもある女の複雑な情念の世界を表現した内容で、理解しやすいと思います。
あと、はじめて観るなら薪能がおすすめです。屋外で松明を炊いた舞台はとても幽玄なムードがありますし、一般の方に向けて観やすい演目が選ばれていることが多いです。
K: 好きなお能は?
Y: 「弱法師(よろぼし)」が好きです。
盲目の少年が心の救いを求めて天王寺へやってきます。長いながい暗黒を経て悟りを得た聖者のことを語りながら、長い橋掛かり(幕から舞台に掛かっている長い廊下のような部分)を進んできます。天王寺の石の鳥居越しに夕陽を拝むと極楽浄土へゆくことができるので、貴賎を問わず天王寺に人が集まったのです。見えない目で極楽浄土を感じ、梅の花が散るのを楽しむ少年。
昔、ある方の「弱法師」を拝見したとき、夕陽に照らされてきらきらと輝きながら散る散華のような梅の花びらや、広大な海の彼方の極楽浄土が見えました。目で見えているわけではないのに、確かに映像を脳が感知している、という感じ‥そんなふうに、能ではときどき、見えないものが見えることがあります。
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K: 休日はどのように過ごされていますか?
Y: 本屋さん(古本屋さんのことも)で気になる本を買って、お茶しながら読むことが多いです。お能の講座のネタ探しであることが多いのですが、能の発祥にも深い関わりのある祭祀や宗教儀礼のルーツは特に興味ある分野で、つい手にとってしまいます。
K: 将来の目標を教えてください。
Y: 自分が見て美しいと思える舞を舞うことです。
見た目だけのことではなく、精神的な美しさや品格が表れているような存在感を持ちたいと思います。そして見てくださった方が「良い時間だった」と感じてくださるような舞台をつとめたいと思います。
今年は源氏物語が世にその存在を知られてから千年の年。
お芝居や書物、TVなどで随分と取り上げられた一年でした。
お能にも源氏物語を題材にした演目が多くあり、男女の情念を描いた物語は理解しやすいですよね。日頃お能に触れる機会の少ない人も、足を運ぶきっかけになればいいですね。
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