 |
Vol.21 万葉集の言葉
|
 |
|
「万葉集」巻四 六六一 大伴郎女 |
|
(逢っているときは 「愛している」と言って
何度でも何度でも「愛している」と言って
一緒にいたいと思ってくれるのなら 「愛している」と言って
何度でも何度でも 繰り返し繰り返し 「愛してる」と言って) |
|
| ――『いにしえからのラブレター』 r y o (ブルームブックス) |
|
|
「万葉集」は、いまから千二百年も前に編まれた日本最古の歌集です。古典なんて、敷居が高くて・・・と思う人もいらっしゃるでしょう。正直言って、大学では国文学を専攻した私も、古典はどちらかというと苦手でした。でも、奈良でライターの仕事をしていると、なにかといえば「万葉集」の歌が引用されます。そのうちに、「その気持ちわかるなあ」と共感できる歌が少しずつ増えてきたような気がします。
なかでも、恋する心は今も昔もそれほど変わらないのでしょう、恋の歌は、理屈ぬきに胸に響いてくるものが多くて、万葉の歌人達がとても近しい存在に感じられます。
今も昔も、恋する思いは、おんなじように甘くて、苦くて、今回、紹介した歌も、とても可愛らしい女ごころが、時空を超えて伝わってきます。
「好き」とか「愛してる」と相手に告げることは、若いときは勇気がいるし、年を重ねると今度は照れくさくなって、なかなかむずかしいことです。確かに以心伝心もすてきなことではありますが、私はやはり好きな人には好きと、態度だけはなく言葉でちゃんと伝えたいし、伝えられたいと思います。
この気持ちは、結婚して夫婦になってからも変わることはありません。
昔から日本では、言霊といって、言葉には不思議な霊力が宿ると信じられてきました。例えば、その人の名前を呼ぶことさえ、特別なことだと思われていた時代もあったといいます。
先日、70代の女性の学者さんが、思い出話をされる中で、ある方のお名前をとりわけ愛おしむような優しい声で発音されることに気がつきました。
初めてお会いしたのに、「あなたは本音を引き出すのがじょうずね」と笑いながら、心を開いてくださったその先生が、「本当はその方のことをずっと好きだったの」と少女のようなお顔でおっしゃったとき、なぜかたまらなくせつなくなって、涙がこぼれそうになりました。

大切な人の名前は、その人そのものです。何度も何度も繰り返し「愛している」と言いたいのに、それがかなわない相手なら、せめてその人の名前だけでも、何度も何度も繰り返し呼びかけたい・・・・・・。そんな先生の思いが、痛いほど伝わってきたからかもしれません。
|
|
倉橋みどり(くらはし・みどり)
読書と映画と俳句を愛する
フリーエディター&ライター |
|